2002年、8月。
東北地方は未曾有の集中豪雨でありました。始めて東京からバイクで秋田に帰省したのですが、秋田へ向かう道中も雨、秋田に着いてからも雨、雨、雨・・・。
数日足留めを食らったが、これも運命。かねてより、一度は訪れなくてはならないと考えていた、津軽を目指すことにした。太宰が小説、「津軽」の中で描いたあの光景にはたして出会えるのだろうか。
ボロボロになった文庫本をポケットに入れ、土砂降りの雨の中、太宰の故郷、青森県は金木町を目指す。
秋田市から7号を北上、左に八郎潟を見ながら、能代で101号に合流します。この道は、鉄道ファンに愛されている、五能線と並行しており、左に日本海、右手に五能線を見ながら走る、なかなかに快適な道です。雨さえなければ。青森に入って、20キロくらい走ると、有名な露天風呂、黄金崎不老不死温泉があります。この日は雨だったので、泣く泣く、スルーしました。
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ちょうど津軽半島の付け根の部分、秋田からずっと北上して、今度は五所川原へ向かって東の方向に走るのですが、ちょうどその起点くらいにある名勝。永年の波の侵食によって、岩があたかも畳のように真っ平になったそうです。
この後、嘘ってくらい雨が降り出したため、ここから金木まで一気に走行するハメに。千畳敷から10キロ程行くと、鯵ヶ沢の海岸。ここは道ぞいに焼きイカの店がたくさん並んでます。食いたかった・・・。
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視界がほとんどない中、鯵ヶ沢からさらに東へ走って、五所川原へ。やっと雨がやみました。そこで339号線に合流し、少し北上すると、太宰治の生まれた、北津軽郡は金木町に至ります。金木の市街地に入るところのY字路に、巨大な太宰のモニュメントがあります。その足下には、小説「津軽」の冒頭の文章の彫られたプレート、走れメロスのイメージのプレートがあります。古ぼけた温泉旅館、金木温泉に宿をとりました。お風呂が銭湯もかねており、地元の方の津軽弁が嬉しかった。
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太宰治記念館(斜陽館)についてはこちら。
津軽の旅二日目、本日の目的地は、小説「津軽」の感涙のクライマックス、太宰と幼年時代の子守りであったタケさんが、30年ぶりに再会する舞台となった、小泊村の、小説「津軽」の像記念館、そして津軽半島の最北端、竜飛崎です。金木を出て、国道339号(小泊道)を北へ。途中、太宰が幼少の頃によくタケさんと遊びに来たという、津軽屈指の桜の名所であり、太宰の文学碑がある芦野公園と、かつて十三湊(とさみなと)といわれ、北国一の港があった、十三湖に立ち寄りました。
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十三湖をかすめながら北上、権現崎の付け根の小さな漁村が、小泊村です。海藻を干している香りがただよう中、「津軽」の像記念館を見つけました。その前にはあの、タケさんと太宰が再会してふたりで眺めていた運動会の行われていた、小泊小学校のグランドがはたしてありました。ホントに静かなところで、記念館のスピーカーから「小さい秋」が流れてます。感無量でした。ここは、時がとまっている。
「平和とは、こんな気持ちの事を言うのであろうか。もし、そうなら、私はこの時、生まれてはじめて心の平和を体験したと言ってもよい。」(「津軽」より)
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感動の小泊をあとにして、津軽の北端、竜飛を目指し、小泊ラインをひた走る。アップダウンがけっこう激しく、下りでは日本海にそのまま飛び込んでいってしまうんじゃあないかしらと思える程。しかし、私がこれまで走った中でも三本指に入る、楽しいワインディングでした。竜飛からは北海道が手が届きそうなくらい近くに見えます。有名な、日本で唯一の階段国道、R339もここ、竜飛にあります。
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竜飛から左手に三厩(みんまや)湾をみながら走ると、海沿いに鶏小屋のような民家が並んでいました。なにか、最果て感が異様に感ぜられ集落を通り過ぎると、源義経が平泉から逃れて来て、神から三匹の竜馬を授かったといわれる義経寺(ぎけいじ)に辿り着きます。
三厩〜今別〜蟹田と、津軽中山ラインを通って、再び金木に戻り、太宰の生まれた家である、太宰治記念館「斜陽館」を見学しました。斜陽館の向いの観光センターで、太宰ラーメンなるものを食しました。太宰の好きだった根曲り竹とわかめの入ったラーメンで、さっぱりしていてうまかった。
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太宰治記念館(斜陽館)についてはこちら。(現在製作中。すみません。)
ある人物のルーツを追い求める旅というのは初めてだったのですが、いざ旅を終えて、太宰の作品を読み返すと、また新鮮な気持ちになれます。初日は土砂降りの雨の中ではあったのですが、余計に忘れられない旅となりました。
まだ小説「津軽」に描かれている土地のすべてを廻ったわけではないのですが、また何年か後に、訪れたくなる事でしょう。
小説「津軽」、読んだことがない人はぜひ読んでみて下さい。素晴らしく、ユーモアと、読者に対するサービス精神と優しさにあふれた作品です。きっと、津軽を訪れてみたくなります。最後に・・・

「まだまだ書きたい事が、あれこれとあつたのだが、津軽の生きてゐる雰囲気は、以上でだいたい語り尽したやうにも思はれる。私は虚飾を行はなかつた。読者をだましはしなかつた。さらば読者よ、命あらばまた他日。元気で行かう。絶望するな。では、失敬。」(小説「津軽」より。)
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